【2025年最新版】運送業の36協定とは?罰則・上限時間と改正ポイントを解説

2024年4月、自動車運転者にもついに「36協定」の時間外労働の上限規制が適用されました。
これまで物流の安定供給を理由に猶予されていたトラックドライバーにも、一般労働者と同様の働き方改革の波が押し寄せています。
特に運送業では、長時間労働が常態化している現場も少なくありません。
今回の法改正によって、労働時間の上限が「法律」で明確に定められたことで、企業には勤怠管理や業務プロセスの見直しが求められています。
本記事では、運送業における36協定の基本から、2024年改正のポイント、罰則リスクや現場への影響までを徹底解説。さらに今後の制度対応や人材戦略についても詳しくご紹介します。
ドライバーの働き方改革にどう対応すべきか迷っている事業者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
36(サブロク)協定とは?その概要と基本ルール
運送業界にも本格的に「働き方改革」の波が押し寄せています。
その中心となるのが、時間外労働の上限規制を定める「36(サブロク)協定」です。
とくに2024年4月以降、トラックドライバーに対しても労働基準法に基づいた36協定の制限が適用されるようになり、業界全体が新たな労働環境への対応を迫られています。
このセクションでは、まず36協定の基本的な役割や制度の背景を押さえつつ、運送業特有の事情や過去との違いについて解説していきます。
36協定を正しく理解し、違反リスクを避けるためにも、まずは制度の全体像を把握しておきましょう。
36協定の目的と法的背景
36協定とは、労働基準法第36条に基づき、企業が労働者と結ぶ「時間外・休日労働に関する協定書」のことを指します。
原則として、企業が労働者に対して1日8時間・週40時間を超えて労働をさせる場合には、この協定を労使で締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
これにより、「労働者を守る」だけでなく、「企業が合法的に残業を命じられる」仕組みが成立します。
本制度の根底には、長時間労働による健康被害や過労死を防止するという目的があります。
政府主導の「働き方改革」の一環として、36協定に基づく上限規制は近年とくに強化されています。
ドライバーと一般労働者の適用範囲の違い
一般の労働者にはすでに、原則として月45時間・年360時間以内という時間外労働の上限が課せられてきました。
特別条項付きでも、年720時間かつ複数月平均80時間以内という厳格な制限があります。
しかし、自動車運転業務に従事する労働者は、これまで長らくこの上限の適用除外とされてきました。
その理由は、運送業の特殊性(不規則な配送ルート、交通渋滞、荷待ち時間など)により、労働時間の事前予測が難しいとされているためです。
この特例措置が、2024年4月に撤廃。
自動車運転者にも、年960時間以内の時間外労働の上限が適用されるようになったのです。
一般労働者よりもやや緩やかな上限ではあるものの、業界にとっては大きな転換点となりました。
2024年以前の運送業への適用状況
2024年以前、運送業界における36協定は「形だけの協定」になりがちな状況が続いていました。
というのも、特例として上限が適用されていなかったため、残業時間が長期的に膨張しやすい環境にあったのです。
たとえば、
- トラックドライバーが月100時間以上の時間外労働を行う
- 繁忙期には連日12時間以上の運転業務が続く
- 休憩・待機時間と労働時間の境界があいまいになる
といったケースが常態化し、過労死や健康障害が社会問題となっていました。
このような実態を受けて、政府は「過労死等防止対策推進法」に基づき、運送業への上限規制導入を決断。
2024年4月からの完全適用が実現した形です。
▽制度の本質を理解し、現場に活かす第一歩を
36協定は、単なる「残業許可の手続き」ではなく、労働者の健康と命を守るための法律上のルールです。
運送業界にとっては、業務体制の見直しや労働環境の改善が急務となっています。
これまで曖昧だった労働時間の管理を、法的枠組みの中で明確にするチャンスでもあります。
ドライバーの安全と、企業の持続的な運営の両立のために、まずは36協定の基本をしっかりと理解し、現場への落とし込みを図りましょう。
2024年4月、36協定で何が起きた?変更点とその影響
2024年4月、運送業界において大きな転換点となる法改正が実施されました。
それが、自動車運転業務に対する36(サブロク)協定の上限規制の本格適用です。
これまでは適用除外とされていた業種の一つであった運送業ですが、働き方改革関連法の流れの中で、ついにその枠組みの中に組み込まれました。
この改正は、単に書類の更新や運用変更にとどまらず、ドライバーの労働環境、企業の運用体制、さらには物流全体の効率性にも影響を及ぼす重大なものです。
本セクションでは、改正のポイントとその影響について詳しく解説します。
自動車運転者にも上限規制が適用開始
まず最も大きな改正点は、自動車運転者に時間外労働の上限規制が適用されたことです。
これまでトラックドライバーなどの自動車運転業務は、一般労働者とは異なり、36協定の上限規制から一部除外されていました。
しかし、2024年4月からは以下の制限が設けられました。
- 年間の時間外労働は960時間が上限
- 月45時間、年360時間の原則は維持
- 特別条項があっても年960時間を超えてはならない
これにより、今まで“無制限に近い”長時間労働が黙認されていた運送業界にも、法的に明確な制限が課されたことになります。
違反があれば罰則の対象となるため、企業は従来のような「忙しいからとりあえず長時間働いてもらう」という体制を根本的に見直す必要があります。
新様式への切り替え(様式第9号・第9号の2)
制度改正に伴い、36協定届の書式も新たに定められました。2024年以降、運送業の自動車運転業務に関しては「様式第9号」および「様式第9号の2」を使用する必要があります。
- 様式第9号 – 通常の自動車運転業務に関する36協定届
- 様式第9号の2 – 特別条項付き協定に関する届出用
この様式変更は、従来の第1号・第2号様式と異なり、ドライバーに特化した項目が明記されており、「運転時間の上限」や「連続運転の休憩義務」なども細かく記載する必要があります。
そのため、労務管理担当者や経営者は、単なる書類の差し替えと捉えるのではなく、労働時間の実態と書類記載内容に齟齬がないかを慎重に確認する必要があります。
36協定違反による罰則と行政指導リスク
新たな上限規制が導入されたことで、36協定に違反した場合のリスクも大幅に高まりました。
以下のような違反行為が確認された場合、行政処分や企業名公表の対象となる可能性があります。
- 協定未締結のまま時間外労働を行わせる
- 上限時間(年960時間)を超えて労働させる
- 様式記載に虚偽がある、あるいは過少申告している
- 実態と乖離した運行管理を続けている
また、労働基準監督署からの是正勧告や立ち入り調査も強化されており、行政対応に追われる運送事業者も少なくありません。
特に、大手荷主との契約を多数抱える中小物流企業は、コンプライアンス体制の不備が信用失墜に直結するおそれもあるため注意が必要です。
▽法改正をチャンスに変える視点が重要
2024年4月の改正により、運送業界においても「法令に則った働き方」への強制力が本格的に作用し始めました。
これは、単なる制約ではなく、慢性的な人材不足や過重労働の解消へ向けた転換点とも言えます。
企業側にとっては、「何が変わったか」だけでなく、「どう変えていくか」を考えることが重要です。
適切な勤怠管理ツールの導入や、業務分担の見直し、労務リスクを低減させる体制構築は、長期的には経営の安定性を高める投資にもなり得ます。
法改正を単なる負担とせず、「持続可能な運送ビジネス」への第一歩として前向きに捉えることが、2025年以降の物流業界での生き残りに直結すると言えるでしょう。
運送業における「3つの上限」|拘束時間・運転時間・時間外労働
2024年4月から自動車運転業務にも労働時間の上限規制が適用されるようになり、運送業界は新たな労務管理のフェーズに入りました。
この背景には、ドライバーの過重労働や健康被害を防ぎ、持続可能な物流体制を構築するという社会的要請があります。
この記事では、運送業における36協定の実務対応として押さえておきたい「3つの上限」—拘束時間・運転時間・時間外労働について、具体的な数値や例を交えて解説します。
とくに中小の運送事業者や現場責任者にとって、法令順守と安全運行を両立するための指針となる内容をまとめています。
拘束時間の上限と休息期間の確保
拘束時間とは、ドライバーが事業者の指揮命令下に置かれている時間のことを指します。運転している時間だけでなく、荷待ちや点検なども含まれます。
拘束時間の上限は、1日13時間(延長で最大16時間)、1か月293時間、1年3,516時間とされています。
また、1日については、原則として15時間を超える拘束を週に2回までに制限することが求められます。
さらに、1日の勤務終了後には継続11時間以上の休息期間を確保することが基本ルールです(最低でも8時間)。
この休息時間の確保が、次の勤務時の安全確保につながります。
拘束時間の過多は疲労や判断力の低下を引き起こし、事故のリスクを大幅に高めます。
そのため、日報や運行管理システムを活用し、実績ベースで拘束時間の監視を徹底することが重要です。
運転時間の制限と連続運転の規定
拘束時間の中でも特に注意が必要なのが「運転時間」です。長時間運転は注意力の低下や疲労による重大事故を招く要因となるため、厳格に管理されるべき項目です。
1日あたりの運転時間は9時間が上限(2日平均で1日9時間以内)であり、1週間では44時間が上限と定められています。
さらに、連続運転時間は4時間までとされ、その後は30分以上の休憩を取らなければなりません(分割してもOKですが、1回の休憩は10分以上必要)。
このルールを守るためには、運行前の計画段階でのシミュレーションが不可欠です。
たとえば、配送ルートや荷卸し予定時間を踏まえて、事前に休憩を組み込むことで、ルール順守と効率的な運行の両立が可能になります。
時間外労働と休日労働の制限
2024年4月から自動車運転者にも時間外労働の上限が適用されるようになりました。
具体的には、年間時間外労働時間の上限が960時間とされ、これは一般労働者よりも緩やかなものの、これまで規制がなかった運送業界にとっては大きな転換点です。
また、1か月あたりの時間外労働が80時間を超えると、過労死ラインとみなされ、監督署の指導対象になりやすい点にも注意が必要です。
36協定を締結していても、限度時間を超えての労働は許されません。
休日労働についても、原則として1週間に1回の休日が必要とされ、労働基準法に準拠した体制整備が求められます。
違反が発覚すれば、是正勧告や改善命令が出されるリスクもあります。
2人乗務の場合の特例措置
2人乗務(いわゆるツーマン運行)の場合、一部の上限規制に特例が認められています。
たとえば、高速バスや長距離輸送などにおいては、1人あたりの拘束時間や運転時間の扱いが緩和されることがあります。
具体的には、交代で休憩を取りながら運転するため、連続運転時間や休息期間に関する条件が一部緩和され、長距離移動でも法令に準じた運行が可能となります。
ただし、この特例を適用するには「交代可能な状態を常に保っていること」や「社内規定に明文化されていること」など複数の条件を満たす必要があるため、十分な準備と運用ルールの明確化が求められます。
▽「3つの上限」を意識した運行管理が事故・違反防止の鍵
運送業界における「拘束時間」「運転時間」「時間外労働」の3つの上限規制は、現場の安全と法令順守、そしてドライバーの健康管理を同時に守るための重要な基準です。
違反は企業の信用失墜や行政処分にも直結するため、最新の労働時間ルールを確実に把握し、運行計画・現場管理・36協定の運用を見直すことが求められます。
ドライバー・管理者・経営層が一体となって取り組むことこそが、持続可能な物流体制の第一歩です。
36協定の適用が運送業界に与える影響
2024年4月から、自動車運転者に対しても36(サブロク)協定による時間外労働の上限規制が本格的に適用されました。
この法改正は、長時間労働が常態化していた運送業界にとって大きな転換点となっています。
特に長距離輸送や繁忙期対応を担っていた事業者にとって、制度対応は急務です。
本セクションでは、36協定の導入がもたらす影響を、ドライバーの労働環境、現場の人手不足、さらには物流体制全体の変化という観点から整理していきます。
ドライバーの収入減少と働き方の変化
36協定の上限により、1ヶ月45時間・年360時間という時間外労働の制限が原則として適用され、運送業においても例外ではなくなりました。
これまで長時間労働によって収入を確保していたドライバーにとって、これは残業代の減少=収入の減少を意味します。
その結果として、ドライバーの中には副業を検討する動きや、他業種への転職を視野に入れるケースも増えつつあります。
また企業側も、短時間で効率的に輸送をこなすための運行スケジュールの見直しや、配車システムの最適化が求められるようになっており、運行管理者にとっても業務の難度は上がっています。
物流・製造現場でのリソース不足
運送業における36協定の導入は、単にドライバー個人の問題ではなく、荷主企業や製造現場にも影響を及ぼしています。
たとえば、以下のような状況が発生しています。
- 納品希望時間に対応できないため、出荷スケジュールの再調整が必要
- 深夜・早朝の配送が困難になり、製造ラインの待機や人員ロスが発生
- 緊急輸送への柔軟な対応が難しくなり、生産計画全体が圧迫されるケース
このように、従来の「いつでも運べる・運んでもらえる」体制が崩れつつある中で、物流を起点とした業務フローの再構築が急務となっています。
長距離便・繁忙期への対応力低下
とくに深刻なのが、長距離輸送や繁忙期の対応力の低下です。
以前であれば、深夜をまたぐ長距離運行や2日間にわたる連続運転も現場の努力でなんとか対応できていましたが、36協定の規制により拘束時間の上限(原則1日13時間・延長でも最大16時間)が厳格に管理されるようになり、ドライバーの運行制限に直結しています。
これにより、
- 年末年始、GWなどの繁忙期に運べる荷物量が減少
- 小口配送が分散化し、1件あたりの輸送効率が悪化
- 長距離路線の撤退や縮小を決断する運送会社も増加
といった現象が各地で起きています。
結果として、地域間の輸送格差や、特定地域でのドライバー偏在問題にもつながりつつあります。
▽法改正を機に“運び方改革”のチャンスに
36協定の適用によって、運送業界には確かに大きな制限が生じました。
しかしこれは単なる「負担」ではなく、これまでの長時間依存型から脱却し、持続可能な物流体制を築く契機とも言えます。
企業には、労働環境の改善を前提とした業務の見直しや、IT導入・人員最適化などの物流戦略の再構築が求められています。
法改正をきっかけに、働き手にも荷主にも優しい運送業を築くことが、いまこそ必要とされています。
36協定下での労働時間管理と勤怠対策
2024年4月以降、運送業界にも適用が始まった36協定の時間外労働規制。
これにより、労働時間の管理体制を一新せざるを得ない企業も多いのではないでしょうか。
特に、ドライバーの拘束時間や運転時間の上限が厳格に定められたことで、従来の慣習に頼った勤怠管理では法令違反のリスクが高まっています。
ここでは、運送業における36協定下の労働時間管理と、適切な勤怠対策について具体的に解説します。
勤怠管理システムの最適化
36協定の適用により、日々の労働時間・休息時間の正確な記録が義務化されたも同然です。
従来の紙ベースや口頭による報告では、管理者側も現場側も対応しきれなくなる恐れがあります。
現在、多くの運送事業者で導入が進んでいるのが「クラウド型勤怠管理システム」です。これにより、
- ドライバーの出退勤時間や休憩時間をリアルタイムで把握
- スマートフォンやタブレット端末からの打刻が可能
- 事務所から遠隔地にいる運転手の勤怠も正確に管理
といったメリットが得られ、法令遵守と業務効率化の両立が図れます。
業務プロセスの効率化・見直し
勤怠管理の強化は、単にシステム導入だけでは不十分です。
労働時間を削減しながら利益を維持するためには、業務プロセスそのものの見直しが求められます。
具体的な取り組みとしては、
- 荷積み・荷下ろし作業の分業化
- 配送ルートの最適化
- 待機時間の短縮に向けた荷主との連携
- 休憩・仮眠スペースの整備による回転率向上
などが挙げられます。
これらの改善は、時間外労働の削減だけでなく、ドライバーの身体的・精神的な負担軽減にも寄与するでしょう。
労働時間の可視化とリアルタイム集計
運送業界では、走行距離や道路状況により1日の労働時間が大きく変動します。
だからこそ、その日の労働状況をリアルタイムに集計・確認できる体制が不可欠です。
GPSやデジタルタコグラフと連動したシステムであれば、以下のようなことが可能になります。
- 個別のドライバーの拘束時間・運転時間の即時把握
- 法定労働時間の超過アラート機能
- 日次・週次・月次でのレポート自動生成
- 違反リスクのあるケースの自動抽出
これにより、管理者側も迅速な是正対応が可能となり、「気付かないうちに法令違反」というリスクを回避できます。
▽労働時間対策の徹底が事業継続の鍵に
36協定の厳格な適用により、運送業における労働時間管理は“経営課題”として無視できないものになっています。
法令順守はもちろんのこと、ドライバーの働きやすさや業務の効率性にも直結する問題です。
単なる勤怠管理ツールの導入にとどまらず、業務フローや組織全体のマネジメント方針を見直す姿勢こそが、今後の持続可能な物流運営には不可欠です。
人材不足が叫ばれる中、労働時間の見える化と対策の徹底が、企業の信頼性と競争力を左右する鍵となるでしょう。
特別条項付き36協定とは?運送業での活用の可否
特別条項付き36協定は、通常の時間外労働の上限を超えて労働させる場合に必要な特別な取り決めです。
2024年4月から自動車運転者にも36協定の上限規制が適用されたことで、運送業界でもこの特別条項の扱いが注目されています。
しかし、運送業における適用には業界特有の制限やリスクが存在し、安易な活用は大きなトラブルを招く可能性もあります。
このセクションでは、特別条項付き36協定の概要と、運送業における実際の活用可否について詳しく解説します。
特別条項の内容と発動条件
特別条項とは、36協定の時間外労働の「原則月45時間・年360時間」という上限を臨時的に超えるための例外措置です。
これを設けるには、以下のような詳細な記載が必要です。
- 限度時間を超える理由(臨時的かつ特別な事情)
- 延長できる時間の上限(月100時間未満・複数月平均80時間以内)
- 年6回までという回数制限
- 健康確保措置の明記
これらの条件をすべて満たしたうえで、協定書には様式第9号または第9号の2(新様式)を使用し、労働基準監督署への届け出が必要です。
発動の際には、あくまで「突発的な業務増加やトラブル対応」など、予見しにくい状況であることが求められます。
運送業における特別条項の制限とリスク
運送業界では、36協定の上限適用が2024年から始まったばかりであり、特別条項の導入にも慎重な姿勢が必要です。
理由として、以下のような制約とリスクが挙げられます。
- 業種特例により上限値が明確に設定されている
運送業のドライバーには、拘束時間・運転時間・時間外労働それぞれに明確な上限が設けられており、特別条項によってこの上限を簡単に超えることは法令違反に直結します。 - そもそも業務が恒常的に長時間化しているケースが多い
慢性的な人手不足や無理な配車体制が続く中で、「臨時的・特別な事情」として条項を発動することが適切と認められにくく、監督署からの是正勧告リスクも高まります。 - 健康障害や過労リスクへの企業責任が重くなる
労働時間が長引くことで事故リスクが増加し、仮に健康被害が発生した場合、使用者責任が問われる可能性が高まります。 - 協定内容が不備だと違法労働として扱われる可能性も
届け出内容に漏れや曖昧な記載があると、協定そのものが無効とされ、労働基準法違反で罰則の対象になるおそれもあります。
そのため、特別条項を設ける場合は、法的な知見を持つ労務顧問や社会保険労務士のサポートを受けながら、適切に運用することが求められます。
▽運送業における特別条項の扱いは“慎重さ”がカギ
運送業において特別条項付き36協定を導入することは可能ではありますが、非常に慎重な対応が求められます。
ドライバーの健康と安全を守るためにも、常態的な長時間労働を是正する努力を前提としつつ、例外的な措置として限定的に使うべきです。
制度の正しい理解と、実務に即した適用管理が不可欠であり、労働時間の透明化と業務の効率化と並行して取り組むことが、業界全体の持続可能な働き方につながります。
運送業界の多様な勤務形態と36協定の関係性
長時間労働が課題とされてきた運送業界では、業務の特性に合わせた柔軟な勤務形態が導入されています。
その一方で、36(サブロク)協定との整合性をどう取るかが企業にとっての大きな課題です。
特に変形労働時間制やフレックスタイム制の適用には、制度理解と適正な管理体制が不可欠です。
本章では、代表的な勤務形態と36協定の関係性を整理し、それぞれのメリットと注意点を解説します。
1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月単位の変形労働時間制は、業務の繁閑が月ごとにある現場に適した制度です。
1日8時間・週40時間の法定労働時間を、1ヶ月単位で平均して調整することで、忙しい日とそうでない日の勤務時間に柔軟性を持たせることが可能になります。
運送業では、繁忙期の連続運行や荷主の都合による波動が大きいため、この制度を活用すれば残業時間の抑制や、ドライバーの負担軽減にも繋がります。
しかし、就業規則や労使協定への明確な記載と、事前の勤務シフト提示が必要であり、適切な運用がされていないと36協定の限度時間を超えるリスクもあるため注意が必要です。
1年単位の変形労働時間制
より長期的な繁閑の差に対応するには、1年単位の変形労働時間制が有効です。
繁忙期に1日10時間働いても、閑散期に労働時間を減らせば、年単位で平均して週40時間以内に収まるように設計できます。
この制度は、季節ごとに大きく業務量が変動する物流企業や、観光地配送などに強みを持つ企業に適しています。
ただし、1年単位での調整には年間スケジュールの綿密な策定が求められ、突発的な業務増加時に柔軟に対応しづらいという課題もあります。
特に時間外労働の管理が複雑化しやすいため、36協定との整合性を欠かさないよう運用ルールの明確化が必須です。
フレックスタイム制の導入余地
フレックスタイム制は、従業員が一定の範囲内で始業・終業時間を自由に決められる制度であり、ドライバー個人の裁量を活かした働き方が可能です。
とくに拠点間の中距離運行や日帰り配送など、拘束時間の予測が比較的しやすい業務に適しています。
一方で、フレックス制はコアタイムの設定が不要となった点で制度運用が柔軟になったものの、業務の開始・終了を自己判断で決定することによるリスクもあります。
たとえば遅延・早出などによる実働時間のズレが蓄積すれば、36協定上の限度を超える可能性が生じます。
また、運行管理者の指示が必要な輸送業務では、フレックス導入が運用面で難しい場合も多く、労使での十分な協議と、勤怠管理システムの整備が必要不可欠です。
▽勤務形態と36協定の整合性を取ることが安全と持続性のカギ
運送業界では、変形労働時間制やフレックスタイム制を上手に活用することで、業務の柔軟性や生産性を高めることが可能です。
しかし、いずれの制度も36協定の枠組みを逸脱しないよう適切に設計・管理することが前提条件です。
特に2024年の法改正以降、ドライバーの労働時間にも厳格な上限が設けられたことで、従来の感覚では通用しない場面も増えています。
制度の理解と実務運用の両立こそが、安全運行と企業存続を支える重要な要素となるでしょう。
業界全体での意識改革と管理体制の強化が求められています。
運送業界の多様な勤務形態と36協定の関係性
2024年4月から運送業界にも適用が始まった36(サブロク)協定の上限規制。
これにより、自動車運転者の労働時間にも明確な制限が設けられ、労働環境の見直しが各社に迫られています。
しかし一方で、業務の性質上、運送業は多様な勤務形態を採用しているため、一律のルールだけでは柔軟な運営が難しい現実もあります。
この記事では、代表的な3つの勤務形態と36協定の関係性を整理し、それぞれの制度がどのように運用可能なのか、また注意点はどこにあるのかを解説します。
1ヶ月単位の変形労働時間制
この制度は1ヶ月以内の一定期間を平均して週40時間以内に収まるように労働時間を調整できる勤務形態です。
運送業では繁忙期・閑散期の波に対応するために活用されることが多く、たとえば繁忙日の拘束時間を長めに設定し、閑散日に短縮する運用が可能です。
ただし、36協定で定める時間外労働の上限(月45時間、年360時間)はこの制度でも遵守する必要があります。
計画的に運用すれば柔軟性を担保しつつ、法令にも適合できますが、実態としては「名ばかり変形労働時間制」となり違反リスクが高まるケースも見受けられます。
労働時間の可視化や記録の整備が不可欠です。
1年単位の変形労働時間制
より長期的に労働時間を調整できるのがこの制度です。
1年間を通して週平均40時間以内であれば、季節波動に応じた働き方が可能となります。
年末年始や繁忙期の増便体制などに活かせる反面、使用には労使協定の締結と行政への届け出が必須であり、運用ハードルが上がります。
また、週単位・月単位での過重労働が常態化すると、年単位で見て適法でも健康リスクや事故リスクが高まる可能性があります。
運送業界では導入事例が限られており、適用には慎重な設計が求められます。
フレックスタイム制の導入余地
フレックスタイム制は始業・終業時間を労働者の裁量で決める働き方で、営業職や企画職には適していますが、運送業界では適用が難しいのが現実です。
運行スケジュールに基づく業務が中心のため、フレックス制度との相性が悪く、多くの企業では導入例がほとんどありません。
ただし、配車担当や内勤の業務に対しては導入余地があり、オフィス部門の生産性向上策として検討の価値はあるでしょう。
▽多様な勤務形態こそ、適正な36協定運用のカギ
勤務形態の選択肢が増えることは企業にとって大きな武器になりますが、その一方で、制度を理解せずに導入すると36協定違反につながる危険性もあります。
とくに、ドライバーの長時間労働が社会問題となる中では、「変形労働時間制を理由に実質的な拘束時間が改善されない」状態は避けなければなりません。
重要なのは、労働時間管理と制度の組み合わせを最適化すること。形だけの制度導入ではなく、現場の働き方と制度設計が一致してこそ、真の意味での法令遵守と労働環境の改善が実現します。
長距離トラックはどうなる?「超えられない日数制限」がもたらす現場のリアル
2024年4月からの改正労働基準法により、運送業界では36協定の上限規制が自動車運転者にも本格的に適用されました。
これにより、長距離トラックドライバーにとっては従来の働き方が大きく揺らいでいます。
とりわけ注目されているのが、拘束時間や連続運転時間の厳格化により「2日ルール」とも言われる日数制限の現実的な影響です。
これまで当たり前のように行われていた「夜通し走って翌日朝に納品」というスタイルは、法改正により実質的に困難となりました。
本セクションでは、長距離ドライバーが直面する制限と、その制限がもたらす現場の課題を掘り下げていきます。
長距離配送で直面する「2日ルール」とドライバーの睡眠時間確保問題
改正法のもとでは、1日の拘束時間が最大13時間(延長しても15時間まで)、運転時間は2日で18時間以内というルールが設けられています。
これにより、長距離配送を担うドライバーは、これまでのように1人で1000km以上を一気に走破することが難しくなってきました。
さらに、「継続11時間以上の休息(もしくは分割で合計11時間、うち1回の連続休息8時間以上)」が求められるため、仮眠レベルでは違法となるケースも出てきます。
たとえば、東京から福岡まで1人で運転する場合、道中で法的に定められた休息時間をきちんと確保しようとすれば、どうしても2泊以上が必要になる可能性が高いのです。
このような「超えられない2日間」という制限は、物理的な距離以上に、配送スケジュールの組み直しや荷主との調整負荷を大きくしています。
現場では「今までは当日出発→翌朝納品が普通だったが、それでは法律違反になる」という事例が急増しています。
さらに、物流企業としてもドライバーの安全確保は当然重要ですが、「守らせたくても守らせきれない」現実との板挟みになっているケースも見られます。
配送ルートの見直し、分業制の導入、パーキングでの長時間休息スペースの確保などが急務ですが、一朝一夕に対応できるものではありません。
▽長距離トラックの未来を守るには、全体の物流設計見直しが必須
長距離輸送における「2日ルール」導入は、ドライバーの健康と安全を守るための重要な一歩である一方で、現場の運用には大きな負担と混乱をもたらしています。
特に中小物流会社にとっては、ルールを守ることで配送スピードの低下や収益への影響が避けられない状況もあり、業界全体での構造改革が求められています。
ドライバー1人に頼る配送スタイルから、複数名での分担制や中継輸送への移行、荷主側の理解と協力も不可欠です。
これまでの常識を見直し、2025年以降も持続可能な物流を目指すために、今こそ柔軟な変革が求められています。
まとめ|36協定とともに、運送業の働き方はどう変わるのか?
2024年4月から自動車運転業務にも時間外労働の上限規制が適用され、運送業界は法令順守と業務効率化の両立という大きな課題に直面しています。
これまで対象外だった業種が36協定の枠に組み込まれたことで、ドライバーの働き方・企業の運用体制・物流全体の構造にまで影響が広がっています。
拘束時間・運転時間・時間外労働の「3つの上限」によって、ドライバーの労働負担軽減が期待される一方で、収入減少・長距離便減少・繁忙期対応力の低下といった現場の課題も浮上。
これに対応するには、人材戦略の再構築(女性・シニアの活用など)や短中距離輸送への移行、業務プロセスの見直しが不可欠です。
また、36協定違反には罰則や行政指導リスクが伴うため、勤怠管理システムの最適化や労働時間のリアルタイム把握といったIT活用による管理体制の強化も急務です。
特別条項の活用や勤務形態の見直しなど、企業ごとに柔軟な対応が求められる今、「コンプライアンス」と「持続可能な運営」の両立こそが生き残りの鍵となります。
制度を正しく理解し、戦略的に活用することで、激変する運送業界の中でも確かな成長が見込めるでしょう。