運送業の荷待ち時間とは?実態・原因・改善策を国のガイドラインから徹底解説
運送業界において、「荷待ち時間」は長年にわたる構造的な課題とされています。
トラックドライバーが荷主や倉庫側の都合で長時間待機するこの時間は、労働時間の増加・人手不足・生産性低下といった深刻な影響をもたらしています。
特に2024年問題を背景に、国土交通省は「荷待ち・荷役時間2時間以内」などの法的ルールや改善義務を強化。荷主・運送会社双方に対し、削減への具体的な取り組みが求められています。本記事では、荷待ち時間の定義・実態・法的ルール・行政のガイドライン・改善事例までを体系的に解説し、現場で実践できる対策のヒントを紹介します。
目次
荷待ち時間とは|定義と物流現場での位置づけ

荷待ち時間とは、トラックドライバーが現場で積み込みや荷降ろしを待つ時間を指し、労働時間の見直しや2024年問題の中でも大きな課題とされています。
まずはその定義と位置づけを整理しましょう。
荷待ち時間の基本的な意味と定義
荷待ち時間は、荷物の準備や作業スペースの確保が整うまでの「待機時間」です。
トラックが到着してもすぐ作業に入れない場合、その時間は拘束されており、実質的には労働時間の一部とみなされます。
荷待ち時間と拘束時間・労働時間の関係
拘束時間とは、ドライバーが会社の指揮命令下にある全時間のことです。したがって、車両から離れられない荷待ちは休憩時間ではなく労働時間に含まれるのが原則です。
荷待ちは休憩時間ではない?判断基準と誤解
「荷待ちは休憩」と誤解されがちですが、作業開始時刻が決まっている・車両のそばを離れられない場合は労働とみなされます。労基法上も「使用者の指揮下にある時間」はすべて労働時間に該当します。
現場で発生する主なケース
主な発生要因には以下のようなものがあります。
- 積み込み・荷下ろし待機
- 出荷列の順番待ち
- 時間指定による早着調整
- 荷主側の準備遅れ
まとめ:荷待ちは「隠れた労働時間」
見た目は“待ち”でも、実際はドライバーの拘束時間。休憩ではなく、管理すべき労働時間であることを明確に認識する必要があります。
荷待ち時間の現状と発生要因

国土交通省の調査によると、1回あたりの荷待ち時間は平均1時間15分に達し、3時間を超えるケースも珍しくありません。その背景には、構造的な要因が潜んでいます。
平均荷待ち時間と増加傾向(最新統計)
2023年度のデータでは、全体の約3割の運送会社が「2時間を超える荷待ちが頻発」と回答しています。特に都市圏・大型拠点で増加傾向が顕著です。
ドライバー都合・荷主都合に分類される待機の種類
荷待ちは「早着などドライバー側の要因」と「出荷遅延や準備不足など荷主側の要因」に分かれます。多くは後者が占め、ドライバーの責任ではない待機が常態化しています。
出荷集中・庫内作業遅延・人手不足などの典型的要因
特に多いのは以下の3点です。
- 出荷集中:特定の時間帯にトラックが集中
- 庫内遅延:人員不足・在庫混乱による作業遅れ
- 指示遅延:荷主からの積載指示や伝票発行が遅れる
荷主側・運送会社側の認識ギャップ
荷主は「多少の待機は仕方ない」と考える一方、ドライバーは「拘束時間の延長」と捉えています。この温度差が改善の妨げとなっています。
まとめ:構造的要因の見直しが鍵
荷待ちは人員やシステムの問題だけでなく、サプライチェーン全体の非効率が原因。業界横断的な取り組みが求められます。
荷待ち時間がもたらす影響と課題

長時間の荷待ちは、ドライバー・運送会社・業界全体に多面的な悪影響を及ぼします。ここではその具体的なリスクを整理します。
ドライバーへの影響
過剰な荷待ちは睡眠不足や集中力の低下を引き起こし、交通事故の要因にもなります。精神的ストレスが蓄積し、離職率の上昇にもつながります。
運送会社への影響
拘束時間の増加は労働コストの上昇を意味します。結果として配送効率の悪化・利益率低下を招き、事業継続を脅かす要因になります。
物流全体への影響
長時間の荷待ちは配送遅延を招き、サプライチェーン全体に影響を及ぼします。これは2024年問題(働き方改革関連法の上限規制)とも直結しています。
社会的コストと業界イメージの悪化
ドライバー不足の原因としても荷待ちは挙げられます。劣悪な労働環境は若手離れを招き、業界全体の印象を下げる悪循環を生みます。
まとめ:荷待ちは業界全体の生産性を奪う
放置すれば、事故・人手不足・経営圧迫のトリプルリスク。荷待ち削減は安全・雇用・企業利益の全てに関わる経営課題です。
荷待ち時間削減に関する法的ルールと義務

国土交通省は2024年にかけて、荷待ち削減を義務化する法整備を進めています。特に注目すべきは「2時間以内ルール」と「記録義務」です。
「荷待ち・荷役時間2時間以内」ルールの概要
荷待ちと荷役を合わせて2時間以内に収める努力義務が設けられています。超過が常態化する企業は改善計画の策定を求められます。
荷待ち時間の記録・報告の義務化
運送会社には荷待ち発生状況の記録義務、特定荷主には定期報告義務があります。これによりデータベース化・可視化が進みつつあります。
荷待ち削減計画の策定義務
一定規模以上の荷主(特定荷主)は、中長期計画を立て、定期的に実施状況を報告する義務があります。これに違反した場合は行政指導の対象になります。
待機時間料と標準的運賃との関係
「標準的な運賃」では、荷待ち時間に対して**待機時間料(補償金)**を設定することが推奨されています。荷主負担が明文化されつつある点も重要です。
悪質な荷主への勧告・社名公表制度
改善に応じない荷主に対しては、勧告・公表制度が導入。実際に社名公表の事例もあり、社会的信用を失うリスクが高まっています。
まとめ:法令対応は「義務」ではなく「信頼確保策」
荷待ち管理は法令遵守の域を超え、企業の社会的信頼を守るリスクマネジメントの一環です。
国土交通省・行政の取り組みとガイドライン

荷待ち時間削減は、運送業界の自助努力だけでは限界があります。そのため、国土交通省を中心に、行政としての指導・監視体制が強化されています。ここでは国のガイドラインと施策の概要を紹介します。
「荷待ち時間削減推進ガイドライン」の概要
国交省が発表したガイドラインでは、荷主・運送事業者双方に対して「2時間以内ルール」や荷待ち記録の明確化が求められています。目的はドライバーの労働環境改善と物流の持続可能性確保です。
通報窓口・トラックGメンによる監視体制
2023年には「トラックGメン」が設置され、悪質な荷主や倉庫事業者への是正指導を強化。通報窓口も設けられ、ドライバーや運送会社が匿名で実態を報告できる環境が整備されています。
「標準的な運賃」制度による改善促進
国が策定した標準運賃には、荷待ち時間や荷役作業に伴う費用を明確に含める項目が追加されました。これにより、運送会社が正当な対価を請求しやすくなっています。
KPI(削減率・記録率)の公表と進捗管理
行政は、荷待ち削減率・記録率などをKPIとして定期的に発表。企業ごとの取り組み状況を数値化することで、業界全体の透明性を高めています。
まとめ:行政主導から“協働”へ進化
国は監視機関ではなく、改善を後押しするパートナーへ。ガイドラインを活用し、荷主・事業者・行政の三位一体で課題解決を進めることが求められます。
荷待ち時間削減に向けた企業の実践施策

制度が整っても、実際の現場で動かなければ意味がありません。ここでは、運送会社や荷主が実際に導入している代表的な改善策を紹介します。
バース予約システムの導入と運用事例
入庫時間を事前予約できる「バース予約システム」は、待機の発生を防ぐ最も有効な手段です。スギ薬局や森永乳業など、予約制導入で待機ゼロを実現した企業も登場しています。
パレット化・標準化による荷役効率向上
荷役作業の手間を減らす「パレット化」は、1回の積み下ろし時間を大幅に短縮します。標準規格パレットの導入により、異なる拠点間でもスムーズな荷扱いが可能です。
ハンディターミナル・デジタル記録の活用
荷受・出荷情報をハンディ端末で管理することで、作業進捗や待機時間をリアルタイムで共有できます。データを可視化することで、ボトルネック分析にも活用できます。
荷主と運送事業者の情報共有・連携強化
定期的な協議会やクラウド上でのスケジュール共有により、トラック集中や積み込み遅延を防ぐことが可能です。情報連携が荷待ち削減の基盤です。
荷待ちデータの可視化によるボトルネック分析
可視化されたデータを分析し、どの拠点・時間帯で待機が多いかを特定。改善サイクルを回すことで、持続的な削減が実現します。
まとめ:デジタルと連携が鍵
**「見える化」→「共有」→「改善」**の流れを社内に定着させることで、荷待ちは大幅に減少します。現場発信の改善こそ最大の効果を生みます。
荷待ち時間削減を支援するツール・システム活用例

近年では、荷待ち管理をサポートするITツールやIoT機器が多数登場しています。システムを上手く活用することで、人手不足でも管理精度を高めることができます。
バース予約管理システム(MOVO Berthなど)の特徴
MOVO Berthなどのシステムは、入出庫の順番予約や滞留状況の可視化に対応。荷主・運送会社・倉庫が同じ画面で進行を確認できるのが強みです。
IoT・GPSによる滞留時間の自動記録
GPS・ビーコン機能を活用することで、トラックの滞在時間を自動で記録可能。手動入力の手間を減らし、正確な労働時間算出にも役立ちます。
他拠点間での荷待ち・荷役データ共有の仕組み
クラウド型物流管理システムを導入すれば、複数拠点での待機時間を一括管理できます。拠点ごとのばらつきを比較し、改善優先度を明確化できます。
AI活用によるスケジュール最適化の可能性
AIが出荷スケジュールや到着時刻を予測し、トラックの集中を分散。**「並ばない物流」**の実現に向けた次世代技術として注目されています。
まとめ:テクノロジーが現場を変える
荷待ち対策の主役は人からシステムへ。**IT導入はコストではなく“時間削減投資”**であり、業務の効率化と法令遵守を両立できます。
荷待ち時間削減の成功事例と成果

国の取り組みと企業努力が結びついた結果、荷待ち削減に成功した事例が増えています。代表的な企業を見ていきましょう。
スギ薬局|通過型センターでの待機ゼロ化
通過型センターの導入により、積み替え作業を分散化。バース予約と組み合わせることで、待機ゼロ・回転率向上を実現しました。
森永乳業|製造物流のバース予約改革
工場内の物流を可視化し、車両ごとの入構・退場時刻をデータ化。結果として平均待機時間を40%削減することに成功しました。
中小企業の成功パターン(可視化→協議→改善)
小規模事業者でも、まずはデジタル記録や日報共有から始め、荷主との協議体制を構築。データに基づく対話が改善を後押ししました。
改善により得られた効果(コスト削減・安全性向上・離職防止)
待機時間の削減は、燃料費・人件費の削減だけでなく、ドライバーの満足度向上にも直結。離職率低下や安全運転意識の向上という副次的効果も得られます。
まとめ:成功事例に共通するのは「継続と共有」
改善を一度で終わらせず、データの共有→協議→再分析を繰り返すことが成果を維持する鍵です。
荷待ち時間を“減らす”から“なくす”へ|これからの物流マネジメント

今後の物流は「改善」ではなく「再設計」が求められます。荷待ち削減を企業戦略として組み込むことが、業界の未来を支えるカギとなります。
荷主と運送会社の「協働管理」への転換
責任の押し付け合いから脱却し、共同で時間を管理する仕組みが必要です。データ連携を通じて、業務効率と公正な取引の両立を図ります。
荷待ち削減を経営指標に組み込む発想
待機時間の削減は、経営指標の「生産性」や「従業員満足度」に直結します。企業のESG経営やサステナビリティ報告にも活用可能です。
IT・DXによる物流現場のリアルタイム化
IoTやAIを用いたリアルタイム管理により、荷待ち状況を瞬時に把握。現場の見える化が即改善につながる体制が整いつつあります。
荷待ち削減がもたらすサステナブル物流への道
荷待ち削減は、CO₂削減・燃料効率改善にも寄与。社会的にも環境的にも持続可能な物流実現に向けた第一歩です。
まとめ:時間管理こそ次世代物流の中核
荷待ちの削減は「働き方改革」だけでなく、物流DX・環境対策・人材確保すべてをつなぐ改革です。今こそ、業界全体で“待たせない物流”を築く時です。
まとめ:荷待ち時間の削減は「物流の未来」を守る第一歩

荷待ち時間の問題は、ドライバー個人の負担に留まらず、運送会社の収益や物流全体の効率、さらには日本経済のサプライチェーンにも影響を及ぼす深刻な課題です。
国土交通省のガイドラインや2時間ルールの導入など、行政・荷主・運送事業者が協働して解決を進める環境が整いつつあります。
企業としては、バース予約やデジタル記録などのITツールを活用し、「待たせない」運営体制を構築することが欠かせません。また、荷主とのコミュニケーション強化やデータの可視化を進めることで、持続的な改善を実現できます。
荷待ち時間の削減は単なる業務効率化ではなく、働き方改革・安全対策・環境負荷削減を同時に実現する経営戦略です。いまこそ「減らす」から「なくす」へと意識を転換し、サステナブルな物流の未来を切り拓いていきましょう。

